
2025年6月20日(金)〜22(日)、北海道・札幌市にて第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会が開催されました。この学会に北辰会から、会員で医師の丸山晃央先生・笹松信吾先生が現地にてご講演、正講師の竹下有先生がオンデマンドでご講演されました。現地で拝聴する機会を得ましたのでご報告します。
(上写真:参加した北辰会メンバーの集合写真。左から丸山晃央先生、池亀康夫先生、近藤誠俊先生、竹下有先生、増田卓也先生、筆者、笹松慎吾先生)
目次
丸山先生の講演
大会初日。近年は北海道もエアコン必須の暑い日が多いのですが、この日はあいにくの曇り空ではあったものの、本州以南の先生方をお迎えするかのような涼風が吹いておりました。この日、北辰会会員で医師の丸山晃央先生が「プライマリ・ケアに関わる医療者の体験セミナー前後の鍼灸に対する意識変化の調査」という題で講演。
日本プライマリ・ケア連合学会(以下、PC学会)が主催するセミナーで、医療者向け鍼灸体験セミナーを開催し、学習前後の受講者の意識を調査したもので、事前アンケートでは「自分では(鍼灸を診療で)やりたくない」という割合が6割だったのが、セミナー後は2割にまで減り、ポジティブな意識の変化が大半であったことをまず報告。
鍼灸の普及の障壁となっているのは「知らない」ということ。また臨床医にとって更に切実なのは「信頼できる鍼灸師がわからない」ということでした。
会場からも鋭い質問が挙がり、「セミナーに来た人はそもそも(鍼灸に対して)前向きな人では?」、「まったく鍼灸に縁がなかった人って来ました?」などの疑問がぶつけられます。
これに対して、セミナー受講前のアンケートで「そもそもなぜこのセミナーを受講しようと思いましたか?」という問いに対して、主に「自身の診療の幅を広げたい」、「自身が鍼灸の受療を経験している」といった回答が目立っていた。現実問題として、鍼灸にもともと縁があった人が多かったという丸山先生のご回答。
医師が鍼灸に興味を持つのは、そもそも鍼灸を知っているからという、当たり前のことが前提となるわけですが、我々、鍼灸師側の力不足を再認識させられる一方で、鍼灸に対する意識が前向きに向上した受講生の半数はもともと受療経験が無かった人であり、知ってもらえればその有意性は納得してもらえるという、励まされる内容となりました。
この講義を聞きに来られる先生が、そもそも鍼灸に興味をお持ちの皆さまである、ということもあるのかもしれませんが、会場からは他にも、「継続した取り組みが必要なのでは?」「年一回ではシリーズ化は難しいのでは?」「長期的な取り組みの見通しは?」「初学者向けのセミナーを増やしてみては?」など真剣な声があがっていました。
笹松先生の講演
北辰会の現地講演二人目は、同じく医師の笹松信吾先生。笹松先生は大会二日目、「長年苦しんだ特発性有痛性筋痙攣に対して漢方薬および鍼灸院との連携による鍼治療が奏功した一例」と題したポスター発表をご講演。
有痛性筋痙攣とはいわゆる「筋肉が“つる”」こと。俗にいう「こむら返り」ですが、強い痛みが持続しQOLを著しく低下させるケースもありながら、明確な発症機序が明らかではない病気です。
こむら返り=芍薬甘草湯、というくらいに漢方薬を選択する先生が増えたことは、東洋医学の普及という点においてはとりあえずは喜ばしいことですが、当然のことながら証が合わなければ効きませんし、病因病理が不明確だと、効かなくなったあとの次の一手がなかなか出せません。今回の症例も、既往歴で芍薬甘草湯による改善はみられたものの、その後、再発して受診に到った方でした。
笹松先生は、肝鬱気滞・肝血虚と弁証し、加味逍遥散を処方。1週間でほぼ症状を消失させたのですが、その後の経過でCOVID-19に罹患したのを契機に体力低下・倦怠感なども出現し、主訴も再発しました。
ここで、笹松先生はエキス剤だけでなく鍼灸を併用することを提案され、北辰会の正講師で京都風胤堂の飯野祐二先生に診療を依頼されます。飯野先生の鍼治療は、主に右「後溪」の瀉法。笹松先生の処方は柴胡加竜骨牡蛎湯という、二本柱で治療を行ったところ主訴だけでなく、入眠時間や中途覚醒にも改善がみられたという結果でした。
笹松先生は考察で、実際に医師が鍼灸を提供するには課題も多いので、特に背景理論を同じくする鍼灸師を「知っていて」連携することが重要になる、とお話しされていましたが、この症例は、鍼灸に興味を持っていても「信頼できる鍼灸師がわからない」という問題に対する一つのモデルケースとも言えそうです。
オンデマンドシンポジウム
大会終了後は、オンデマンドシンポジウム「PC(プライマリ・ケア)連合学会認定鍼灸師制度の設立に向けての提言」が、学会参加者に向けて配信されました。
このシンポジウムは、丸山晃央先生が企画責任者となり、「医はき師“てらぽん”」こと長崎県口之津病院の寺澤佳洋先生、順天堂大学医学部衛生学・公衆衛生学講座 准教授の友岡清秀先生、福島県立医科大学会津医療センターの鈴木雅雄先生、そして北辰会学術副部長の竹下有先生の5名が参加されました。
はじめに竹下有先生からは、清明院(注:竹下有先生の治療院)の外来・往診を通して、実際に地域の医療機関と行えている医療連携の構図を紹介されました。
このシンポジウムの中で、近年の医療界で言及される Interprofessional Education(IPE):専門職連携教育、または Interprofession work(IPW):専門職連携実践 ということが一つのキーワードになるのですが、鍼灸師が地域医療の中で提供できる Profession:専門性 は、「東洋医学的な介入ができること」であると主張されました。
このことについては、鈴木雅雄先生も教育者の立場から詳しくお話しされるのですが、医師を含めた本邦の国家資格の中で、必修単位にも国家試験の受験科目にも東洋医学が含まれているのは、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師のみである、ということも強調されています。
友岡清秀先生は、現実に認定制度を創設するに当たって必要となるであろう、多職種連携から考える鍼灸師のコンピテンシー(専門職業人がある状況で専門職業人として業務を行う能力。知識、技術の統合。倫理観や態度も求められ、学習によって修得し、第3者が測定可能な能力)について述べられました。
まず鍼灸師の特徴として「医師・看護師とは異なる身体観」を有し、非言語的コミュニケーションを多用し、ナラティブを重視する、生活者に寄り添った施術をするといったことを上げ、医療の間隙を埋めるポテンシャルに注目されました。
課題として、「プライマリ・ケアの中で鍼灸師に何ができるのか?」という鍼灸師の専門性を他職の方々に明確に説明できるようになることを挙げられましたが、現実問題として制度上、多職種と連携するための教育基盤、特に卒後は開業権を有していることもあって、鍼灸師が地域医療の中に入るための仕組みはほぼ整備されていないことを指摘されました。
鈴木先生は、近年の病院を取り巻く厳しい経営の現状から、患者さんを病院から地域に戻す方向へと進んでいるなかで、地域医療を担うプライマリ・ケアの社会的な役割が大きくなってきていること。そうした未来の地域医療の中に、鍼灸師を入れていくべきと述べられました。海外の論文では鍼治療自体のエビデンスは多く揃ってきており、国内の診療ガイドラインでも主に疼痛関連で鍼灸が推奨されていることが紹介されました。
もっとも、診療ガイドラインでは、そこまで強い推奨はしていない。そして、その理由のひとつに、「実際に施術する鍼灸師の質が担保されていない」と言われていることを挙げ、ここでも背景にある問題として、やはり鍼灸師の卒後の教育がそもそも定まっていないことを指摘されました。この課題に向き合う上での一例として、病院の各診療科を研修できる福島県立医科大学会津医療センターでの鍼灸師育成モデルを紹介されました。
寺澤佳洋先生は、「医はき師」という独特の視点から病院と鍼灸院との橋を掛けることをデザインしたい、と日頃活動されていらっしゃいます。今回のお話の中では、病院側から鍼灸に対する率直な疑問を紹介されましたが、その中の一つに、ここでも「どの鍼灸師と連携すればよいのか?」という疑問が出てきます。ここで寺澤先生は、鍼灸師に限らず医療関係者すべてに向けて「どんな医師・医療機関なら信頼できますか?」という問いかけをされます。
経営学修士(MBA)も修められた寺澤先生らしく、経営学や組織論でしばしば重視される「組織信頼形成の主要因子(代表的3因子モデル)」を取り上げ、「能力」(医師ならその分野の専門医など)、「誠実性」(約束を守る、情報を開示する、倫理的に行動するなど)、「好意/善意」(自分に対して好意的な関心を持っていると感じられること)ということが医師同士でも基本である、というお話はどなたにも納得いただける内容だったと思います。
このシンポジウムのテーマは「プライマリ・ケア連合学会認定鍼灸師という制度を作ろう」ということですが、皆さん、講演の中で重視されているのは、鍼灸の有用性については様々な側面から有用であると認識は一致しているので、課題はIPWが可能な鍼灸師を育成すること、ということなのですが、友岡先生が指摘された、現行の3年間の学校教育では医療者としての一般的な能力を涵養しきるのが難しく、卒後は各々の自己研鑽に委ねられているという問題は、業界全体で取り組まなければいけない課題だと思いました。
今後の教育のあり方として「Interprofessional Educationを取り入れる」。そして「病院などの医療機関でのon-sight training」という点は、私もぜひ勉強させて欲しいものだと思いました。実際に、竹下先生の清明院でも、スタッフの病院への見学・研修に取り組んでいるそうです。
鈴木先生から挙がった、鍼灸の個別の治療論には踏み込まないという点は、鍼灸師側が一致して協力していく前提となりそうですし、寺澤先生が言及された、「PC学会認定の鍼灸師を作る」というテーマである以上は当然、PC学会にとってどんなメリットがあるのかをアピールしていく必要がある、という視点は、延いては地域医療・日本国全体にとってどんなメリットがあるかを発信しなければならないということだと思います。
地域医療と連携することは、鍼灸医学が存在する意義をより明確化するということにもつながるかと思います。PC学会の認定制度は、その連携のための、一つの架け橋になり得るものです。願わくば、鍼灸師側からも積極的に参画していきたいものです。
大会を振り返って
せっかく参加させていただいた学会ですので、北辰会関連の発表だけでなく、他の医師の先生の発表も拝見させていただきましたが、講演される先生も、それを聴く先生方も積極果敢そのものです。大会基調講演を初め、一般講演の先生方からも「これからの社会に必要とされる医療像」を真剣に考えていることが端々から感じられました。
また、こうした先生が集まる学会にお邪魔すると、真面目に取り組み続ければ、医師はじめ多職種の皆さまも応えてくれそうだという勇気がもらえます。
今回の学会では、「学会ジョイントプログラム」で寺澤先生・鈴木先生も参加されて日本東洋医学会の講演もあり、講演での質疑応答も盛況で、講演が終わった後も、会場に参加された皆さまは、病院などの地域医療の現場で鍼灸・漢方を日々、奮闘されている者同士、話に花を咲かせていました。
私も、大会に駆け付けた竹下先生、増田先生に取り持っていただき、同じ道内で奮闘されている先生方と交流する機会も得ることができました。私一人が参加しただけでは、このようなご縁に恵まれることはありませんでした。竹下先生、増田先生、丸山先生、笹松先生にこの場をお借りして改めて御礼申し上げます。
今回、第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会に参加させて頂けたことは、勉強になること、襟を正されること、励まされることが大変多く、本当に来て良かったと実感しました。大会成功に向けてご繁忙の中、準備された大会関係者の皆さまに改めて御礼申し上げます。
実に個人的なことで恐縮ですが、大会の前日、道内各地で学術大会の前日企画が催されていたのですが、その中の一つに、私の地元・室蘭での講演がありました。日本における家庭医療の草分け的な診療所のひとつが室蘭にあり、その歴史に触れる講演ということで、もちろん拝聴させていただきました。思いがけず、本当のご近所で貴重な勉強をさせていただき、まさに僥倖でした。
機会があればこうした学会に参加することを皆さまにお勧めして、報告を終えたいと思います。
なお、第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会は2次参加登録を9月30日まで受け付けており、今回紹介したオンデマンドシンポジウムも申し込めば視聴可能ですので、ご興味のある方はお早めに申し込みください。
(第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 参加登録URL)
https://plaza.umin.ac.jp/jpca2025/registration/index.html
千葉 顕嗣
(北辰会編集部 編集長)
2025年6月20日(金)~22(日)
於 札幌コンベンションセンター・札幌市産業振興センター