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― 医師と鍼灸をつなぐ学術交流の現場 ―
先日、日本病院総合診療医学会学術総会が、長崎県長崎市の出島メッセ長崎にて開催されました。
本学会には全国から多くの医師・医療関係者が集まり、総合診療の未来について活発な議論が交わされていました。
今回は、北辰会 正講師である竹下有先生が講演および実技を担当され、私・木山は記録撮影(カメラマン)として参加いたしました。本記事では、現地の様子とともにシンポジウムの内容をご報告いたします。
シンポジウム
「鍼灸で変わる総合診療:温故知新の治療アプローチの可能性」
【座長】
増田卓也先生(三井記念病院)
佐々木陽典先生(東邦大学医療センター大森病院)
【演者】
寺澤佳洋先生(口之津病院)
崎山広大先生(沖縄県立中部病院)
三谷直哉先生(熊本赤十字病院)
竹下 有先生(清明院)
医師主体の学術総会において「鍼灸」が一つのテーマとして扱われること自体、現在の医療界における関心の高まりを象徴しているように感じられました。
「鍼灸とは何か」を医師に伝える試み

最初に登壇された寺澤先生は、鍼灸師資格取得後に医学部へ編入され、医師・はり師・きゅう師の三資格を持つ立場から講演を行われました。
講演では、
- 鍼灸の適応と禁忌
- 医師と鍼灸師の連携可能性
- 病院医療と地域鍼灸院の関係性
について、医療全体を俯瞰する視点から解説がなされました。
特に印象的だったのは、
鍼灸は「病名を診断する医療」というより、
身体に触れて患者の状態を理解する医療である
という視点です。
これは総合診療医が重視する「患者全体を診る」という理念とも深く共鳴するものであり、医療哲学としての共通基盤を感じさせる内容でした。
また、医療機関と鍼灸院の間に「橋を架ける」取り組みについても紹介され、
- 医師自身が鍼灸を行う
- 地域鍼灸院との連携
- 医療機関での鍼灸導入
- 福利厚生としての活用
など、双方向の交流の重要性が強調されました。
総合診療における鍼灸紹介の実際

続いて登壇された崎山先生(沖縄県立中部病院)は、総合内科・リウマチ診療の現場からの報告でした。
現代医学のみではマネジメントが困難な症例を地域鍼灸院へ紹介し、一定の成果を得ている実例が提示されました。
特に印象的だったのは、
医師と鍼灸師が「顔の見える関係」を築くことが連携の第一歩
という提言です。
学会参加者の多くが医師であったこともあり、鍼灸導入の方法や制度面、実務的な視点にまで踏み込んだ内容となり、会場の関心の高さが伺えました。
急性期病院における鍼灸の実践

三谷直哉先生(熊本赤十字病院)の発表は、非常に注目度の高いものでした。
全国に赤十字病院は存在しますが、急性期病院の総合内科病棟において鍼灸・漢方が実践されている例は極めて稀であり、座長からも「世界的にも貴重な取り組み」と紹介されていました。
テーマは、
「総合内科病棟鍼灸師のリアル ― 入院患者に鍼灸を活用する意義 ―」
依頼科の割合は以下の通りです。
- 内科:40%
- 血液・腫瘍内科:23%
- 産婦人科:8%
- 救急科:5%
- 脳神経内科・循環器・消化器内科:各4%
実際の運用方法や報酬形態、臨床効果について具体的に紹介されました。
特に印象的だったのは、看護師から
「この患者さん、鍼灸しないんですか?」
という声が自然に上がるようになったというエピソードです。
鍼灸が医療チームの中で信頼を獲得していく過程が伝わり、会場も大きく盛り上がりました。
北辰会方式による地域医療連携 ― 竹下有先生 講演・実技

最後は、北辰会 正講師である竹下有先生による講演および実技が行われました。
講演では、清明院における地域医療連携の実際が紹介され、
- 外来診療
- 往診(保険診療を活用)
という具体的な臨床モデルが提示され、医師にとっても非常に理解しやすい内容となっていました。

実技では、希望された参加者1名に対し、その場で鍼治療を実施。
座長の佐々木先生とともに体表観察を行い、
- ツボの左右差
- 脈状の変化
を共有しながら治療が進められました。
治療後には体表所見の変化が確認され、医師の先生方が驚かれている様子が印象的でした。
被験者は便秘症状を主訴としており、左臨泣穴への施術により湿熱を降ろし腎を立てる治療が行われ、体表観察レベルでの明確な変化が共有されました。
カメラマンとして間近で拝見しましたが、医師と鍼灸師が同じ視点で身体を観察し議論する光景は非常に象徴的であり、本シンポジウムの意義を体現する場面であったと感じました。
まとめ
医師と鍼灸師の「接点」は確実に広がっている
今回の学会は、単なる鍼灸紹介の場ではなく、医師と鍼灸師が共通の言語で「身体を診るとは何か」を問い直す場であったように感じました。
私自身、日々の臨床の中で当たり前のように行っている体表観察が、医師の先生方との対話の中でも共有可能な「身体理解の方法」として受け取られている場面を目の当たりにし、大きな手応えを感じました。
医療が高度に専門分化していく現在だからこそ、患者を全体として捉える視点の重要性は、むしろ高まっているように思います。
今回の学会参加を通じて得られた学びや気づきを、今後の臨床や日々の学習の中でさらに深めていきたいと感じています。
医師と鍼灸師が交わる現場は、すでに始まっている——
そのことを強く実感した学術総会でした。


