第45回日本伝統鍼灸学会・金沢大会に参加して

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周知のとおり今年の伝統鍼灸学会は2017年10月14・15日の2日間金沢の地で開催されました。

古くは加賀百万石、前田氏の統治のもと江戸時代には小京都として繁栄し、品格のある地方都市のたたずまいを感じる。

昨今アジアや西欧からの観光客も多いようで、大変近代化しながらも伝統的な日本文化を上手にアピールしている様相だった。

発展はしているが穏やかな空気間の地方都市の印象を受け降り立った雰囲気は大変良い印象を受けた。

すでに、ネット上には本大会に関しては、意見・感想が述べられておりますので、そちらも参考いただき、取り敢えずは,以下、本大会の公式facebookのURL
https://www.facebook.com/JTAMS45kanazawa/
こちらを参考にしていただければ、大体の参加されなかった方も雰囲気は十分伝わってくると思います。

金沢駅前の写真

今回の学会で北辰会では奥村裕一学術部長と森洋平対外対策部長が座長して参加され、森先生は「いっしん」の販売部門でもご活躍でした。

しかし、今回は発表された当会藤本新風先生と竹下有先生の発表を中心に紹介します。

【初めに】

昨年は世界鍼灸大会WFAS2016年がつくばの地で開催され、昨年は北辰会会員の先生方も多く参加されて、

北辰会も代表藤本蓮風先生の実技セッションを中心として、北辰会の紹介PVを作成し情報発信し、「弁証論治」を踏まえた日本伝統鍼灸のあり方として大いにアピールを行ったことは記憶に新しい。

その一年後の伝統鍼灸学会、今回の大会テーマは

「日本伝統鍼灸の確立に向けて~伝統から未来へ~」

何を確立してゆくのか?その確立したものを未来に対してどのように示し、日本伝統鍼灸がどのような存在意義を今後も残してゆくのか?そのための方法論は?

そのような発表・議論を期待して参加に臨んだ。

既読の方も多いとは思うが、伝統鍼灸学会誌第44巻(通巻89号)に、当会副代表のWFAS2016参加後への感想、もしくは提言に近い文章が掲載されております。

北辰会会員の方が読めば「さもありなん」の内容ではあるが、要約すると

共通用語について

  1. 現代の伝統鍼灸各派が、独自の手法、概念、用語を用いて、臨床効果を上げている臨床事実があり、
    それらの多様性は認めつつも、日本伝統鍼灸学会の統一的共通用語が未確立であり、それでは国際的にアピールしてゆくことは困難である。
  2. 中国のWHO、ISOにみられる独走制と権威主義化への批判、中医学の歴史的浅薄さ等現代の中医学にも問題点があるも、
    世界に日本鍼灸をアピールするには国際公用医語に近い「現代中医学用語」をベースとし、「中医学用語」として論理性体系化された優位性を鑑みて
    『各会派の独自概念・用語の公用語への翻訳の必要性と確立』が急務であること

歴史性を踏まえる必要性

  1. 大陸からの医学の輸入・模倣後、所謂「三因制宜」により、日本の独自の鍼灸医学が発展した歴史的経緯を踏まえて、
    改めて「発掘・継承・発展」に基づく日本の鍼灸医学の再構築、再認識の必要性があり、
    100年足らずの歴史性のみしかない現代の各流派間で今後、『日本鍼灸の止揚』を試みてゆくためにも共通言語が必要だということ。

以上、当会代表藤本蓮風氏が、北辰会発足の1979年以前より、長らく業界に訴えてきた内容を踏まえた発言であり、

個人的には、今回これを踏まえた展開につながる、新たな試みの副代表の実技セッションが行われたのが、非常に衝撃的かつ印象的であった。

ちなみに、経絡治療学会も、現代中医学を参考に独自の教科書を作成しているようであるが、

かつて一読したが、国際社会に対して通用する概念・用語規定であるか否かは、問題が残っているのが現状であろう。

【実技セッション】

午後からは、当会副代表・藤本新風先生による、北辰会方式の実技セッションが行われた。

北辰会以外で2日間にわたり積聚会、東洋はり医会、東方会、鍼道五経会、古典鍼灸研究会の実技披露とともに、中医鍼灸があり、時間の関係上からすべてを観ることはできなかった。

まずは北辰会方式の鍼の種類(毫鍼・古代鍼・打鍼)の針具の特徴と操作法、

治療の根拠と治療法の特徴をアニメーションを交えて簡潔にわかりやすく示した後、

会場から3名のモデルを用意して各種鍼法の実際を示していただいた。

藤本新風先生

刺鍼のデモンストレーションは、北辰会の定例会でも披露していていただいているが、今回はややスリリングな、興味深い展開がみられた。

会場の聴衆に対しても、かなりのインパクトを与えた試みになった。

個人的にも非常にワクワクとして、拝見させて頂いた。

その内容とは・・・

異種格闘技戦

各流派を代表する比較的若手の先生方に新風先生が四診を踏まえたのち、

それぞれの流派先生がそれぞれの体表観察を行い、注目すべき臨床所見を明らかにしてもらい、

北辰会方式の刺鍼後にそれぞれの会派の診察所見の変化を確認してもらうという、「異種格闘技戦」的な趣の試みがおこなわれた。

積聚会からは高橋大希先生が毫鍼、東方会からは横山奬先生が打鍼、経絡治療学会からは船水隆広先生が古代鍼の観察を担当され、三種の鍼法後の自分たち流儀の体表観察を行った。

会場にいる聴衆は映像を通してであるが、各会派の体表観察方法の共通点と相違点が明確に認識できた。

全身の体表の浅在の反応、深在の反応を丁寧に詳細に観察してみる様子は共通しているが、

深在を観察する際の圧力の違いや、擦診を取り入れているなど各派の特徴が示され、興味深かった。

新風副代表には華麗な隙のない鍼法を披露していただき、各会派の先生方は、自分たちの方法論で認識した様々な反応が、一本鍼で大きく変化していることに驚きの色を隠せない様子であった。

正確な弁証・配穴・刺針術が重なると生態がダイナミックに反応して、愁訴にも大きな変化が現れる事を、会場にも各流派の先生にも共有認識する大変面白い試みであった。

ちなみに、毫鍼では「筋縮」の撓入鍼法。

打鍼では「右章門」の相曳きの鍼(即座に肝の陰血の不足がベースの肝実と体表観察から問診を導き出し、会場を感心させていた。)

古代鍼では「左天枢」に翳して処置。

特に「翳しの鍼」では、藤本蓮風代表が日頃よりご教示くださってきた、鍼道秘訣集にある医の原点である「心持の大事」を強調され、

鍼というのは江戸時代にも多くの古流派が提唱しているが、鍼は技術論のみでないことも明言された。

気合の入った流麗な鍼で、臨床実践性の高さを示した実技セッションとなった。

内容と斬新な企画も含めて非常に盛り上がった実技披露となった。

経絡治療

初日、2日目と経絡治療の先生方が実技披露されており、すべてを見られたわけではなかったが、

各々導き出した証の概念規定も異なり、証に対しての治療以外の鍼をほどこす実技が多いように感じられた。

当会の実技と比較すると、大変はっきりとした印象を聴衆は持ったのではないであろうか?

但し、病因病理を踏まえて、証に対しての少数の鍼灸のみ行う経絡流派も存在しており、手法は違えども「共通言語・概念」の必要性を痛切に感じた。

中医鍼灸

また、2日目、中医鍼灸の北京中医薬大学東直門附属病院・鍼灸科主任の王軍先生を招聘しての実技が披露された。

私が参加してきた伝統鍼灸学会の中では、中医鍼灸の先生が実技を見るのは初めてであり、初の試みではないか?

特徴的であったのは刺鍼の際に、経穴の観察を望診・切診にて行い、今までの現代中医の鍼医が行ってきていた、患者の他覚的な得気を得たのち大きな手技を行うのではなく、

細かい回転数の、日本の鍼に近い繊細な撚鍼手技を披露されたのは印象的であった。

やはり鍼の深度は深めなのであるが、個人的に今まで見た中医鍼灸では、弁証論治に体表観察を含め、近年にない画期的な印象を受けた。

「触れる」のが日本鍼灸の特徴としてきたが、今後も内経の方法論に立ち返り、体表の所見を重視する中医学の流派が増えてくる可能性は十分あるであろう。

学術交流としては楽しみな展開になってくる可能性があるように感じた。

中医鍼灸については、最終セッションの「日本と中国 浅鍼はどう違うか?」については、

滞在時間の関係上、未参加であったが、後日、参加した若手の関東支部の先生方に尋ねた感想を纏めると

「中国の先生は失音の患者を想定したデモ治療を行い、従来の他覚的深得気を得る深鍼を、頸部の幹部に近いところに行った後、リハビリ的に発声させるという治療法を公開した。」とのことであった。

会頭の小川恵子先生も「手練の接触鍼法を披露されてすばらしかった。最終的には鍼の深浅について、ここでも臨床的差異や優位性については議論・検討はなく、流派の違いの提示に終わったとの印象であった。」とのことであった。

 

【小児のアトピー性皮膚炎の一症例】

竹下有先生による症例発表も行われた。

先日、北辰会本部エキスパートコースでも、詳しく講義をされており、内容に関して割愛させていただく。

今回の発表も時間内にきちんと収まり、何時ものように明朗に発表され、また皮膚炎が軽快してゆく写真が示されており、印象的な症例であった。

やはり、接触しない古代鍼による「翳し」の鍼が、インパクトを大きく与えていたようである。

その翳しの手法と、小児の脈診について、座長より質問があがっていたが、根拠をしっかりと示し返答され安定した発表であった。

北辰会では、伝統鍼灸学会や東洋医学会において「アトピー性皮膚炎」の発表を多くおこなっており、比較的北辰会方式が得意とする疾患の一つとして、印象付けられたのではないか?

発表後、京都の老齢の小児はりをされている先生から、熱のこもった翳し鍼に対しての質問に、竹下先生が答えているのが印象的であり、

伝統鍼灸学会であるから、言うまでもないかもしれないが、「鍼は単なる刺激療法ではない。」ということが、しっかりとアピールできた症例報告になったのではないか?

竹下有先生

【まとめ~個人的感想に変えて〜】

総参加者数448名と比較的参加者数は多く盛況であったが、会場の石川音楽堂の2会場の距離が遠く移動が少し大変であったのが難点に感じた。

今回は金沢という地の利から北辰会本部、支部の先生方の参加が少く、

本大会には藤本蓮風代表も参加されており、更には今後の日本の鍼灸の方向性を知る上では、もっと北辰会から参加が望まれるところである。

付け加えておくと、金沢は「のどぐろ」や「ガスエビ」など海産物の産地であり、その味わいは抜群であった。(本部・田畑先生が舌によりをかけて選んでくださったお店でお疲れ会を開きました)

金沢の新鮮な海の幸

日本伝統鍼灸における共通用語の認識

本開会テーマである「日本伝統鍼灸における共通用語の認識」

これに関して、東日本大震災の2011年、伝統鍼灸学会東京大会で緊急的に『東京宣言』を行い、

日本伝統鍼灸の方向性を『日本的な体表観察』と打ち出し、

各派の考え方が公的に提示されて以降、大きくは進展していない印象であった。

今大会で、北辰会以外の他会派の症例発表を数例拝聴し、これらに関しては、遅々として進んでいない印象を非常に受けた。

今回、時間の関係上、14日のシンポジウム1「伝統医学の基礎~概念を共有するために~」を充分聞けず、抄録の範囲での理解でしかないことはご容赦いただきたいのであるが、

「共通概念共有の基礎的方法論」が提示されたのみで具体性をはらんだものではなかったようだ。

『多様性の寛容』~もちろん、我が国のみならず、お隣中国でも、臨床の実際は多様性があるので『共通用語・概念』を作ったところで、臨床の現場では『ある種の個性』が存在するのが現実であろう。

但、物事の優位性を度外した上で、お互いの言葉が通じず、意思疎通が難しいのは、医学としては困った現象である。

前述の世界的な流れからも「国際共用語」というもの理解して、各々の個性を理性的に把握する必要性は当然ある。

世界的な潮流について

近年の中医学の欧米進出、台頭の潮流を鑑みるに、

取りあえず世界の共通用語として、WHOの提出している中医学用語を基本としてどうであろうか?

2015年ICD-11の伝統医学疾病分類が提出され、来年度以降わが国でも導入予定であり、

国際的潮流に対して否が応でも、わが日本鍼灸は歩調を合わせてゆく必然性が今後は間違えなく予想され、

時代の潮流に乗り現代日本伝統鍼灸全体にも必然的に変化がみられてくるものだと予想される。

政治的歴史観から眺めると、江戸末期、開国をペリーに迫られて、力ずくで不平等条約と開国を受け入れさせられたのとの同時に、

西洋文明とその帝国主義・植民地主義に抗せざるをえず、明治維新が起こり「富国強兵」と「文明開化」が行われ日本の価値観が一変した。

周知の如く、国家が西洋化したのち、日本の東洋医学は、我々鍼灸も西洋医学との融和策を迫られ、西洋医学化し、

それに対するアンチテーゼとして「古典へ帰れ」のスローガンの下、昭和日本鍼灸、いわゆる経絡治療学派が、竹山晋一郎氏らを中心に台頭。

第二次大戦敗戦後、ある程度の表現の自由の下、戦後日本伝統鍼灸も現代中医学の影響もありつつ、時代の流れに合わせて多様化していった歴史があり現代にいたる。

戦後72年が経過し、近年はアメリカ主導により行われた、グローバリズムやインターネットの世界的普及という流れの下、

日本社会もIT情報化という社会変革が起こり今日に至る。

もはや、日本国内における多様性による用語・概念の「ガラパゴス化」を肯定して、そこに安住していることは不可能であり、

前述の繰り返しにはなるが、世界的な「伝統中国医学」の用語概念の土俵に乗って、日本の独自性をアピールする必要性に迫られているのである。

日本の矜持とは?

我が国は、縄文時代より様々な大陸文化の輸入と模倣、それらの日本化をしてきた。

更に政治的、軍事的外圧に迫られ、様々な伝統的文化概念との軋轢を起こしながら変容して現代日本というのが形成されてきた。

伝統日本鍼灸は今後、国際的にも日本民族・日本文化として、『固守すべき部分』と『変革すべき部分』を、しっかりと見据えて対応してゆかなければならない。

ところで、日本の伝統医学が「大陸からの輸入、模倣、日本化」を図ってきた経緯をたどれば、

漢方医学としての「真のオリジン」を日本に求めることは困難であり、

戦後のWGIP(war gulitied imformation proguram)等の影響を受けたと思われる「日本人の真のアイデンティティー確立の困難さ」を提示したネガティブ論もよく目にする。

しかし、日本文明の特徴といえるのは、『他文化に対するその鷹揚性と日本風土への変容と展開力』である。

ここに矜持を持ち、世界に対しても日本文明、文化、日本の鍼灸医療文化を示してゆけばよいのである。

日本の伝統鍼灸の在り方とは?

現代まで中国・韓国・欧州等に医学を学び、大陸文化を常に貪欲に吸収し、

風土や国民性に合わない部分は上手く取捨選択し、常に日本化し、

先達たちが作り上げてきた、日本伝統医学を重要視しながらも、国際化に合わせてゆくことは、困難な話では決してないはずだ。

近年の、日本伝統鍼灸会が提唱してきた、繊細な体表観察や、微鍼による鍼の技術、

とりわけ日本鍼灸古流派の「管鍼法・打鍼法および九鍼法の応用」が、日本のオリジナルの方法論として、世界にはより認識されてゆくべき内容であるのは、疑いないであろう。

これらの手法を、現代中医学の「八法」の中に再構築してゆけば、

中医学の言う「三因制宜」に沿った形で、国際的にも、現代日本鍼灸の多様性を位置づけることは、大いに可能ではないか?

上記の条件をある程度網羅し、(一社)北辰会は藤本蓮風代表を筆頭に、日本の伝統鍼灸を発掘継承発展させ、

「弁証論治」という枠組みにのみにはとらわれないが、ある程度その世界観の中に鍼灸医学を展開してきた経緯があり、現代の北辰会があるのは周知のとおりである。

現代中医学も、歴史が浅いとはいえ、西欧の帝国主義や植民地主義に対抗、順応しながら独自性を守ってきた部分があり、

日本の伝統医学同様、先人たちが命がけで守り継承、論理化した経緯をしっかりと認識し、その上で日本の鍼灸を主張すべきであろう。

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