2018年3月11日に大阪で行われた北辰会エキスパートコースでは、
「手足の冷え」を訴える方をモデル患者さんにお招きし、
学術部長である奥村裕一先生が、問診から治療まで、丸ごと公開臨床としてご講演頂きました。
この記事では、その様子をダイジェストでお伝えすることで、北辰会方式の一通りの流れを把握することができます。
また問診に関しては、一部を詳細に取り上げ、日々の臨床に活かせられるようお伝えしていきます。
目次
34歳・女性・主訴「手足の冷え」
望診・聞診(挨拶)
双方初対面。
まずは、和やかにご挨拶。少しずつ緊張感がほぐれてきたところで、問診に移っていかれました。
この間、モデル患者さん(以下、患者さん)を包み込むような眼差しでありながら、表情・動き・姿勢・色などを鋭く観察され既に診断が始まっていること、
また時おり会場にも目を向けながら、その場の全体の空気と交流しておられるのが、印象的でした。
初めて会いする者同士。100人以上が見ている中で、
患者さんに少しでも緊張を感じさせない配慮、またそれを見つめる会場にも語りかけるようにお話しされる姿勢に、
臨床家としての信念と豊富な経験、北辰会学術部長の矜持を感じました。
問診
北辰会方式での問診は、現病歴・既往歴・家族構成・生活環境・飲食・睡眠・二便等々を幅広く問診していきます。
その中でも、今回のポイントとなった部分をいくつかみていきます。
広く深く問診するポイント
症状鑑別診断学だけでは足りない
主訴は「手足の冷え」。
症状鑑別診断学や、弁病学に関する書物を紐解けば、四肢厥冷などの項目でいくつかの弁証が載っており、
その中から最も類似性の高い弁証を選択して治療を行う初学者も多いのではないでしょうか。
しかし、この場合の欠点として、その弁証分類に属さない弁証を見落としてしまう可能性が一つ。
もう一つが、弁証する上での証明因子(腎虚なら腰下肢痛など)の多寡で証明できていると思い込み、時間的な流れを考慮しない弁証の甘さに繋がる可能性が一つ。
さらに挙げるとすると、そもそも手足の冷えを訴えておられる患者さんの、本当の悩みを汲み取れずに、ただただ対処療法的に症状の緩和に終始してしまう可能性なども考えられます。
と、他にも色々と考えられますが、そういったことを踏まえて、
まずは、手足の冷えを訴えておられるので、ここを中心に話題を進めていきます。
具体的な問診方法とは?
例えば、今回の患者さん。
手足の冷えは、中学生頃、手の暖かい親友から「手が冷たい」と指摘されるまで、特に気にすることもなく。
また親友にそのように指摘されても、別段日常生活に支障をきたすわけでもないので、特に気にしていなかった。
という情報を引き出す問診を、奥村先生はされました。
つまり、「手足の冷え」は中学時代から感じていたにも関わらず、それを思い悩む状態ではなかった。
それにも関わらず、34歳になった今となっては、それが最も自分の生活の中で思い悩む症状として感じている。
したがって、「中学時代」と「今」では、手足の冷えが日常生活や仕事の中で、明らかにそのことが不自由と感じる「別の背景」があるはずです。
その背景こそ、本当に着目しておくべきポイントになります。
その背景は、すぐに解決できる問題なのか、難しければどれくらい時間がかかりそうなのか、術者からどういったアプローチができるのか、、、など、
着目しておくことで、様々な視点が持てます。
それと同時に、この症状が果たして生理的範疇なのか、病理的なものなのか、疑問が生じます。
ここに、問診の大切さがあるように感じます。
症状の背景に対して臨床家の対応は?
更に問診は進み、
33歳頃から鍼灸師の学校に通い始めたこと。
そして、鍼灸師は当然皮膚に触れて行う仕事のため、学生同士で練習として体表に触れる機会が多くなること。
その時に、手足(この場合、手)が冷えていることで、相手に与える印象が良くないこと。
こういったことが月日を重ねるごとに、悩みとして積もってきていることが理解されてきました。
そこですかさず、同じ道を歩んでこられた奥村先生が優しい口調で語りかけます。
ー自分も最初は同じように悩み苦労したこと。
ーそれが、経験とともに少しずつ良い方向へ変わっていったこと。
ー誰しもが緊張するとある程度は手が冷えるのは正常の範囲内であること。
患者さんの不安を払拭し、そしてそれが経験によって克服できるという話題を持ち出すことで、その場は暖かい優しい空気に包まれました。
実際に、終了後に奥村先生からモデル患者さんに確認をすると、大勢の方に見られているという緊張感が途中からなくなったと仰っておられたようです。
手足の冷えが、病理的に起こっているのか、それとも生理的な範疇なのか。
ただ症状に対して、鑑別診断学の弁証分類で治療を進めてしまうと、その背景に想いが至らず治療が進んでいく可能性もあります。
そうではなく、広く深い視点で、患者さんと向き合う姿勢を奥村先生は示されていました。
北辰会方式「多面的観察」に基づく「弁証論治」
一方で、医学としてのロジスティックな部分を疎かにしては、治療の方針が立たない上に、いたずらに治癒までの時間がかかるのも事実。
そこで、北辰会方式の「多面的観察」による「弁証論治」が有効になってきます。
北辰会方式の「多面的観察」とは、中医学でいう望・聞・問・切の四診を基本としながらも、
それに留まらない、北辰会オリジナルの手法を取り入れて、診察を行う方法です。
それらから得られた問診情報を更に吟味し、
「病因病理」(病の原因。そしてそこから生じる病理、そしてその過程と関係性の全体像。図示すると整理しやすい)、
現時点での最終的な弁証(術者にとって順証か逆証かも含め)、
それに基づく処置と、その処置よって期待される反応、
また、今後の治療で留意しておくべき事項と、養生法を確定していきます。
体表観察(切診)
もちろん、今回の公開臨床でも北辰会方式の「多面的観察」。
問診後には体表観察を行い、病因病理を絞り込んでいきます。
弁証論治
集めた情報を整理し、病因病理と現時点での証を決定します。
そこから、治則治法を決定していきます。
その上で、最終的に最も治療に適切な経穴の選定と、治療道具と手技を決定します。
処置
今回、奥村先生が選択されたのは古代鍼®︎による処置でした。
結果判定
処置によって、所見がどのように変化したのか確認を行います。
結果は、手足が温もり、身体所見も見事に良い方向へ変わっていました!
一例として舌診の変化
処置前
⇩
処置後
舌色が淡紅になり、潤いが出て明るくなっています!
写真に残せる所見を、前後で撮影して残しておくことも臨床に役立ちます。
2018年5月20日スタンダードコースにて本症例を詳細に解説予定!
終了後、奥村先生にご講演への想いをお聞きしました。
「スタンダードコースで問診・体表観察・病因病理の基礎とポイントを学んでこられた方々に、
モデル患者さんを通して私なりの臨床応用を伝えることができればありがたいなという思いでした。」
というお気持ちで、ご講演されておられたようです。
会場からは、入会まもない会員や聴講生からも積極的に質問が上がり、
とても活気のある雰囲気でした。
きっと奥村先生の思いが会場に伝わったのではないでしょうか。
今回の公開臨床の解説については、5月20日スタンダードコースにて、詳しく行われるようですので、
ご興味ある方は、ぜひご参加下さい。
応用実技
当日の午前中は、北辰会・講師陣による実技指導も行われました。
今回の定例会は2017年度最後でした。
一年間を通じて学んできた基礎を、臨床ではどのように把握していけば良いのか。
最近入会したばかりだが、何から始めて行けば良いのか。
聴講で来たのだけど、北辰会ってどんなことをしているのだろう。
などといった様々な疑問に、実技をテーマにしながら小グループ制で気軽に質問できる機会です。
親切・丁寧・楽しく、講師がお答えします。
Drコース
また午前は別室でDrコースも開催され、藤本蓮風代表が実技指導をされていました。
経験・未経験、専門科目を問わず参加することができます。ご興味のあるDrはお気軽にご参加下さい。