森ノ宮医療学園出版部の機関誌『鍼灸OSAKA』誌が『Tehamo』誌へと装いを新たにし、その第1号において村井和講師の「関節リウマチ:北辰会方式」が掲載されたことは当ブログにてすでに紹介したとおりである。
今回発刊された第2号では、プロフェッショナルへの道/座談会「舌診を臨床に活かす」に奥村裕一学術部長が参加を要請され、北辰会の舌診とはいかなるものかについて臨床を交えてその優位性を示している。
Tehamo2号/森ノ宮医療学園出版部 | – 製品 – タイアップ- 鍼灸柔整新聞 (news-shinkyujusei.net)
今回の座談会の出席者は、奥村学術部長、
和辻直先生 明治国際医療大学教授 日本伝統鍼灸学会副会長
寺澤佳洋先生 口之津病院 医師 (鍼灸師免許取得後、医師免許を取得)
森田智先生 千葉大学附属病院和漢診療科 鍼灸師。
日本における舌診のエキスパートとしてそれぞれの立場で発言されている。
最初に、「舌診の定義」について、奥村学術部長が舌診学の歴史および中国伝統医学のなかでの舌診の位置づけを簡潔に説明し、和辻教授が日本の鍼灸界における舌診の受容について紹介。その後、舌診においては経験値を多く積むことが重要であること、舌診の診方では正常な舌を知ることが大切であること、舌診の際注意すべきこと、舌診における舌象の変化の速度についてと、舌診全般について活発な意見交換が行われた。
奥村学術部長は前立腺がん患者の舌の写真を示し、難しい疾患の場合には直観的に「嫌な感じ」がすること、臨床において望診で「神」を捉えることが重要であること、舌診ではあるが多面的観察が必要であることについて触れられた。和辻教授・寺澤医師もその視点を評価され、さらには舌診を教育の場でどう教えるかという点について、写真で示すだけでなく、実際に患者さんと対面して経験を積んでもらうことの重要性と問題の所在を全員で共有した。
「神」を把握することの重要性、真苔・仮苔を弁別するために舌苔を実際に削り、舌苔の根が残るかどうかで邪実の程度・正気虚の程度を知りうるという事実を示したことは、北辰会の舌診学が単に知識ではなく、臨床実践を通じて獲得した智慧であると印象付けることになったようである。
森田先生は千葉大工学部と協力して、舌の画像を一定条件で撮影・記録ができるTIAS(Tongue Image Analyzing System)装置を開発され、現在取り込んだデータをAIで分析できる段階にあることを紹介、このコロナ禍において、術者の感染リスク回避というメリットがあるとも述べられた。より正確な舌診の情報を共有できるという点で、これが非常に画期的な装置であることは言うまでもないが、肉眼に映る舌象だけでなく、より総合的、直観的に把握される「神」が、これにどの程度反映されるのか、非常に興味深い。
蓮風会長が鍼灸臨床における舌診の有用性を提唱し、1983年に『針灸舌診アトラス』として世に問うてから40年。発刊当時は、著名な鍼灸家らから痛烈な批判を受けたこともあったが、日本の鍼灸界において、ようやく舌診の重要性に対する理解が浸透してきたようである。中国伝統医学の歴史・理念を踏まえ、四診合参の中で舌診を正しく位置づけ、臨床における有用性を事実として示し続けてきたことが結実したといえるだろう。
今回舌診のエキスパートとして参加された和辻教授は北辰会において舌診を学ばれ、寺澤医師、森田先生は和辻教授の教え子として舌診の重要性を理解し、臨床で活用されている。
この事実は、日本における舌診学の受容と継承、発展において北辰会が果たして来た役割を示すと同時に、一つ系譜と言っても過言ではないだろう。
北辰会代表 藤本宗家十五代 藤本新風