杉山検校遺徳顕彰会 令和3年度第5回学術講習会 「北辰会の鍼術」をレポートします!

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目次

杉山検校遺徳顕彰会
令和3年度第5回学術講習会 2022年1月16日
「北辰会の鍼術」 藤本新風代表講演

北辰会関東支部長 尾崎真哉レポート

 

2022年、令和3年1月16日日曜日、東京都墨田区両国にある杉山江島神社杉山和一記念館・多目的ホール1Fにおいて掲題の講演が開催されました。(下の写真の左則の黒い建物です。)

2022年に入っても新型コロナウィルの脅威は収まらず、逆にオミクロン株による感染者は増加の一途をたどっていますが、当日は鍼灸家を中心に19名の参加がありました。

今回、尾崎は支部正講師の坂井祐太先生と当日の助手役として参加、坂井先生は午前中北辰会でのEX-ライブ配信の講師を務めた後、本講演に参加、その後さらに伝統鍼灸学会の学術会議に参加と大活躍の1日でした。(大変お疲れ様でした。)

http://www.ejimasugiyama.tokyo 江島杉山神社HPより転載

 

当日のレポートの前に、この神社の造営地についてのエピソードを一つ。

元禄五年(1692年)徳川五代将軍綱吉の時代。検校和一の施術を受け治癒した綱吉が、和一に褒美として何を欲しいかと尋ねたところ、83歳になる盲人の和一は「一つ目が欲しい」と答えた。このかなえる術のない望身を、綱吉は「一つ目」ならぬ本所「一ツ目」の土地を与えるという機智でかなえ、和一は本所一ツ目現杉山神社の地に1890坪の町屋敷と弁財天像を拝領します。折りしも弁財天信仰が庶民の間で盛んになり、その参詣地として全国的にも知られていた江ノ島に、和一は年老いた体で月参りを続けていました。そんな和一の身を案じた綱吉は弁財天を当地に勧請して祀ることを許可し、「本所一ツ目弁天社」と呼ばれる荘厳な社殿が建立されました。明治に入り、4年(1871年)には、盲人をまとめ、権利を守る集団として機能していた当道座が廃止、それに伴い屋敷も没収されるのですが、弁天社の方は綱吉が古跡並の扱いにしていたから江島神社と名称を変え存続、明治23年(1890年)にはその境内に杉山神社が創祀されています。昭和に入り震災や戦災により社殿は二つとも焼失しますが、昭和27年(1952年)に江島杉山神社として合祀され、現在に至っています。

管鍼法開発の際の江の島でのエピソードは日本の鍼灸史においてあまりにも有名ですので敢えてここでは触れませんが、江の島の弁財天が分祀されている故、鍼灸のみならず芸術の能力向上の神としても地元の人々の信仰を集めており、人々に愛され、大変大事にされている印象でした。

 

この下の絵は江ノ島弁才天開帳の際に参詣に向かう4組の女人講中が、それぞれの揃いの日傘で描き分けられている、当時の弁天信仰の賑わいを示す歌川(安藤)広重の浮世絵です。

「相州江之嶋弁才天開帳参詣群集之図」(1844年-1853年頃)

 

我々一行もまずは江島杉山神社に参拝。関東地方の鍼灸師の多くは足を運んだことと思います。かくいう私も、学生時代、杉山神社の存在を知って参拝に出かけたことを思いだしました。鍼灸専門学校卒後、ちょうど大浦慈観先生が『杉山真伝流』を出版され、杉山真伝流の復興、啓蒙活動を始められた時期のこと。同神社で開催された杉山流鍼術の第一回講習会に参加させて頂いたのです。江戸時代当時の真伝流の実践で使用された銀製の鍼管の鍼灸道具の復刻に乗り出されていた大浦先生が、重量のある鍼管が杉山流の18鍼術141種が、いわゆる真伝流百法新術に欠かせない道具であることを実践を通じて再認識されたとおっしゃっていたことを思い出しました。大浦先生が積み重ねられた研究は、2007年には「杉山真伝流臨床指南」(六然社刊)として結実します(真っ赤な表紙で有名な本です)。当時日本鍼灸の学術に全く疎かった私は杉山流鍼管術と夢分、もしくは無分流打鍼術との関わりも知らず、和一が江戸から京都へ移転し医者修行中に打鍼術に触れたことが後の鍼管術形成に大きな影響を与えた事実を知りませんでした。これは現在では周知の事実となっている感もありますが、北辰会で重要視している打鍼術の影響を受けた杉山流管鍼術ゆかりのこの地で、打鍼の臨床応用を特徴の一つとする当会代表藤本新風先生が講演されることに感慨を覚えながら会場入りしました。

 

因みに、昭和53年1978年発刊の『鍼灸医学典籍体系』の総論において藤本家13代和風先生が、杉山流三部書の解説を、藤本家14代藤本蓮風先生は奥田意伯が著述したとされる御園意斎流「鍼道秘訣集」の解説をそれぞれ担当しておられます。蓮風先生が『弁釈鍼道秘訣集』を著しておられることについては、みなさんには説明の必要はありませんよね。

 

さて、本題の講習会についてです。当然のことながら、当日は会場の喚気にも参加者の手指消毒に留意し、午後1時から4時までの約三時間、座学講義と実技披露、受講者対象の簡単な体表観察体験の3本立てで行われました。

 

当日は北辰会の鍼灸道具制作でお世話になっている(株)いっしん様から、撓入鍼のサンプル配布、古代鍼、打鍼のサンプル提示があり、受講された先生方にも興味を持って鍼道具を体験をして頂くことができました。打鍼や古代鍼®を興味深そうに手に取る参加者の姿が印象的でした。

 

開会に際し、最初に公益財団法人杉山検校遺徳顕彰会理事五味哲也様よりご挨拶があり、次に同会の診療施設杉山鍼按治療所で臨床医として活躍され、杉山流研究としても著名な鍼灸経絡研究紘鍼会会長松本俊吾先生から、今回の講習会開催にあたっての説明がありました。その中で松本先生の鍼灸人生を振り返っての蓮風会長への謝辞、さらに同じく伝統鍼灸医学を実践する立場としての北辰会方式への大いなる興味と関心についてお話し頂きました。

 

⇒ 五味哲也理事と藤本新風代表

 

⇒松本俊吾先生

 

今回、講義の冒頭の自己紹介で、新風代表は室町の時代より脈々と続く出雲吉田流の流れを汲む藤本家の血統の話をされました。

12代鐡風(てっぷう)先生は太い鉄の豪鍼の一本鍼術、13代和風先生は撚鍼法の技巧に優れた手技を中心とした鍼術、14代蓮風会長は再び一本鍼を志向し中医学形成以降の日本鍼灸を大いに牽引、そして15代目となる新風代表は北辰会および藤本家の血筋を継承し現在の己の鍼灸がある、という歴史的流れを説明されました。非常に印象深い講義の幕開けで、参加受講者には新鮮で興味深く映ったのではないでしょうか?

 

新風代表による座学の講義は簡単にいうと、北辰会方式の診断術と鍼術の特徴の紹介です。なぜ北辰会方式は一本鍼、少数鍼治療なのか?という理由を古典籍からの引用を踏まえて説明され、北辰会方式は東洋医学、伝統鍼灸医学の継承、更には伝統性を持った「臨床実践的な鍼灸医学」であることを情熱をもって語られました!

 

なぜ、北辰会が理論的根拠を現代中医学に置くのか?

中医学を学ぶことの意義やその現代性、優位性を理論の論理性や悠久の時間が織りなす歴史の堆積性による知識経験の蓄積、また、現在におけるグローバルな視点、世界趨勢からしっかりとアピールされてました。

 

北辰会の四診の意義や詳細な病因病理の構築、オリジナルの空間論や病邪弁証、一本鍼の理由、それぞれに古典的根拠を挙げ、北辰会のオリジナルと見えている理論も、実際には長い歴史の中で、医家の先達が臨床を通じて得た理論を踏まえた継承と発展性を持ったものであること。蓮風会長の提唱された臨床古典学――古医籍の文言に縛られるのではなく、現代に臨床応用し発展させる「実践から理論へ」の重要性――が伝統的な鍼灸に興味を持つ受講生の方々に深い感銘を与え得たように思います。また、古代鍼🄬や打鍼の解説では実技動画も活用され、実践的な部分がより理解しやすくなっていたのも特徴的でした。

 

講義の中で、印象深い点は幾つもあったのですが、個人的には、現代人に合わせた打鍼術用道具の発展改善の理由について、高島文一氏の「杉山流管鍼法興隆の歴史的背景」を引き合いに出しつつ、説明されてことが最も印象的でした。

 

戦国時代から安土桃山時代にかけて発明された打鍼術は江戸時代になっても撃ち入れのスタイルがそのまま受け継がれていたが、徳川も太平期の都市文化全盛を迎えると日本人の体質が心身ともに敏感になり、それに伴い管鍼法が発明され、発展普及していく。それが却って打鍼術衰退の一因となった事実を「三因制宜の精神」から説明、北辰会方式の「撃ち入れない」卵円型の打鍼道具の発展も「現代日本人への三因制宜」に則ったものであること、つまり現代の日本人にマッチした打鍼法の発展である、という論理的な展開は非常に説得力がありました。

 

 

また、『素問』評熱病論(33)に「邪之所湊,其氣必虚,」という有名な句がありますが、これについて新風代表は、「これを典拠として、病の根本は正気の虚から起こるという論が現代でも概念的に引用されることがあるが、実際の臨床とは必ずしも符合しない部分がある」とはっきり発言されました。(そもそも外邪の侵入に際しての正気の状態を述べているくだりではありますが。)臨床においては「正邪弁証」における正邪のウエイトの問題としてとらえること、つまり虚実の把握において標本主従を明らかにすることの重要性が説かれ、北辰会が中医弁証に加えて空間弁証、正邪弁証とい った独自の弁証法を新たに提示している意図が参加の先生方にも十分伝わったと思います。

 

他にも、以前新風代表個人のFacebookでは紹介されていたことですが、経穴へのアプローチの際、穴の状態にマッチした鍼の長さを選択できるようになる為の練習法として、元北辰会理事の森洋平先生が経営されるリうズ医療器の「豪帝」(☜ネーミングがイイですね!)の長さの違う鍉鍼を使っての練習法を提示され、これもまた印象的な内容でした。

 

 

とにもかくにも、久々の対面講義であったことも手伝ってか、あっという間に過ぎた一時間でした。

 

座学終了後、約一時間の実技が、男性のモデル患者二名を対象に行われました。

一人目は30代男性、毫鍼でのデモ治療で手の湿疹が主訴、主訴の増悪緩解因子は慢性化し明瞭ではありませんでしたが、多面的かつ的確な問診を通じて、冬の寒い時期にさしかかり内熱の不発散によって悪化したという病理はある程度明確になりました。肝鬱化火>湿熱証と見立て右後溪穴に対し、いっしん社 撓入鍼2番短鍼にて治療。慢性の手の皮膚症状であることから、直後にたちまち主訴が緩解するものではありませんが、体表観察所見の筋縮及び足陽明経の豊隆穴の知覚鈍麻という顕著な変化に会場が沸きました。

二人目は60代男性。打鍼術による施術です。主訴は腰痛症。気滞湿痰瘀血の病邪が混在しながらも主訴に関しては腎虚が大きく関わると見立て、右の滑肉門へ相曳きの鍼を行い、休憩後、第5足趾の井穴診による知覚鈍麻は消失、十分とは言えないながらも腰痛症状の緩解をみました。

今回のデモ治療では病が慢性化し知覚鈍麻を起こしている経穴に対して、治療直後に知覚の回復を確認しました。刺鍼による経穴反応の変化がモデルを務めた被検者の先生方にもはっきり自覚でき、一本鍼でさまざまな経穴に変化が起こったことが会場の受講者によく伝わったようで、詳細な体表観察と問診を見て興味を持たれた先生も多くおられました。

 

最後の実技指導は時間の関係上、背候診を中心に左右差の大きいところを体感できるように行われました。受講者の中には、ここ二年コロナ禍で実技受講の機会がないことにフラストレーションを覚え、実技の機会を得るため、わざわざ大阪から来られた北辰会本部本会員の方もおられました。講義中は背候診から臓腑の異常を候うだけでなく、背部兪穴が膀胱経上にあるために足太陽経の異常により全体の穴所反応が観察し難くなることや、ただ臓腑経絡の異常を候うだけでなく体表観察による穴の表情の変化や刺鍼による変化で病理を考察する話など臨床的な話が飛び交い、みなさん興味津々のようでした。今後新型コロナ感染が収束に向かい、実技開催が可能になれば、是非北辰会の実技講習で繰り返し学んで頂きたいと思いました。

講義後の質疑応答では、「衛気に対して鍼でアプローチする際の衛気の重層性について」や「試し鍼」などについて比較的臨床性の高い質問もあがりました。

 

講義終了直後、本文でも触れさせていただいた大浦慈観先生(癒しの会代表、東洋鍼灸専門学校校長)が新宿での日曜学校公開説明会を済ませた後で、わざわざ両国の講演会場に駆けつけてくださった!というサプライズもありました。

 

因みに同センター2階の臨床室では深谷灸の講習会が開催されており、鍼灸の学術研鑽、交流の場として本施設が活発に利用されていることが窺われました。今日のような令和の世をもし江戸時代の杉山和一をはじめとする杉山流門下の先生方が目にされたならば、我々におっしゃりたいことはいろいろあるでしょう。ですが、科学技術・西洋医学が高度に発展した現代日本で人々の病気治癒、健康維持に伝統鍼灸医学が貢献し続けている姿に、きっと悪い顔はされていないのではないか?と勝手に想像しながら帰路につきました。

 

最後に、配布された資料に記されたまとめの部分を紹介して、このレポートを締めくくりたいと思います。

「治ったのであれば、なぜ治ったのか?」の理由を理解する。

「治らないのであれば、なぜ治らないのか?」の事由を探求する。

「治らないのであれば、如何にすればよいのか?」に思いを馳せ、

「治せるよう」創意工夫する。

これは霊枢・九鍼十二原(1)

「夫善用鍼者,取其疾也,猶拔刺也,猶雪汚也,猶解結也,猶決閉也。疾雖久,猶可畢也。言不可治者,未得其術也。」からの展開だと思いますが、我々伝統医学に携わる者がいつでも銘記しておかなければならない言葉と思います。

 

年の初めにまた気持ちを新たにし、新たな年に北辰会方式の鍼灸を志される方が増えることを祈りながら、筆を置きたいと思います。

 

コロナ禍で気を遣わなければいけないことが多い中、本講演をされた藤本新風代表、本当にありがとうございます。

 

~その他講座のお知らせ~

☆エキスパートライブ配信☆

2月20日(日)10時~12時
『鍼灸師が知っておくべき精神科のあれこれ』
講師:徳田裕志先生

精神科や心療内科に関わっている患者さんを診させて頂くことも鍼灸院では少なくありません。北辰会方式で問診に時間をかけ、患者さんの症状を紐解いていく中で、私自身考えさせられることも悩むこともしばしばあります。

今回、徳田先生の精神科医目線で語られるお話を聞けるのは、とても貴重な機会だと思います!この機会をお見逃しなく!!

【詳細】
日時:2022年2月20日(日)10:00~12:00
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北辰会本会員:無料(無料ライブURLは後日一斉メールにて配信)
北辰会准会員・准会員B:3000円
外部聴講:3000円

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https://twitcasting.tv/c:hokushinkai/shopcart/118939

 

 

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次回は、2月16日(水)21:00~ 「鬱證」です。

北辰会代表藤本新風先生と北辰会学術部長奥村裕一先生による古典解説ライブ講義となっております。

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