鍼の効かせ方 藤本新風代表講演
第72回 公益社団法人 全日本鍼灸学会学術大会 神戸大会
2023年6月9日(金)~11日(日)会場 神戸国際会議場
大会テーマ
「鍼灸学の次代展望─経験から学び、持続可能なエビデンスをつむぐ─」
https://kobe-cc.jp/ja/facilities/conference-center/
大会二日目ランチョンセミナー4 共催:株式会社いっしん
開演前から長蛇の列ができ、100名を超える参加者となりました。
座長 建部陽嗣先生(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 量子医科学研究所)の軽妙な語り口で雰囲気がやわらぐなか、代表講演が始まりました。
鍼の効かせ方
1本の鍼で効かせ、かつその1本でより効果を上げるためにはどうすればよいか
- 道理にしたがうこと ☞ 拠り所とすべきモノサシとは
いわゆる「現代科学」とは、そもそも拠って立つ思想的背景・哲学が異なる、ということを踏まえておくこと。
- 科学的解明に努めることを否定するものではない。
☞ この歴史ある医学の原典を今一度確認し、そこに学ぶところから始める、ということ。
『素問』『霊枢』≒『鍼経』『難経』 鍼灸医術の原理原則が説かれている。
そして臨床古典学の立場から文献解釈を示されました。
とりわけ代表のライフワークのひとつでもある【補瀉論】における「補瀉と営衛」については、その関係を「川(水)と、もや(水蒸気)」の関係にあるとして、川面の景色になぞらえてわかりやすく示されました。
それは、代表が古典ライブにおいて『万病回春病因指南』などを解説する中で学んだ江戸期日本の古医籍からヒントを得たものでもありました。
- 當補之時.從衞取氣.當瀉之時.從榮置氣.
『難經』七十六難
- 補法:衛気を営気へ転化 水蒸気⇒水
- 瀉法:営気を衛気へ転化 水⇒水蒸気
☞この発想に従えば、多くの毫鍼補瀉の原理を概括することができる。
昼食タイムを使ってのランチョンセミナーということで、参加者はこのあたりでちょうどランチも食べ終わった頃。消化不良を起こさないよう聴衆の先生方にご自身でツボを探ってもらい、陽明大腸経の経絡や衛気を意識しながら体感していただけるよう、実技へとつなげていきます。
ここでは鍼を効かせるためのもう一つのポイント、巧みな鍼の原理とその臨床応用として、
“刺の微は速遅に在り” (『霊枢』九鍼十二原)
☞ 極意は操作のスピードとタイミングに在り!
を実技で示されました。
- 管鍼術・撚鍼法を用いず、鍼の動作の速遅を自在に操作できる、撓入鍼法(とうにゅうしんぽう)によって刺鍼します。
これを、会場の参加者の中から被験者を募り、実技で示されました。
直接その実技をみられた先生方は、口をそろえて手技の美しさに魅了されたとおっしゃっていました。
よどみなく流れるように診察施術していく代表の手技を目の当たりにし、手技によどみがなければ、気も自ずとよどみなく流れるのだと、思わず頷かれたのではないでしょうか。
被験者として代表の鍼を受けた方は、早速Twitterに「判断までがべらぼうに早く、操作が美しく、5番使ってるのに、やはりうたれたかわからないくらい無痛。んでお腹の不調がマシに」と投稿されていました。
今回治療に使用したツボは【左不容】一穴、まさしく1本の鍼で効かせ、かつその1本でより効果を上げるものでした。
たまたま今年筆者が授業で担当した大学生も参加しており、授業で実技のデモンストレーションをした時に、なぜ一穴で効果を示せたのか納得がいったことでしょう。
また、今回のセミナーでは、代表講演の前後に座長の建部先生を囲んで懇談する機会を得たこともとても良い学びになりました。
この鍼の世界で活躍されている北辰会以外の先生方と懇談し意見交換するのも学会の楽しみです。
ちなみに代表講演にいち早く並んで最前列で聴講されていたのは、高名な臨床家でありながら、研究発表にも意欲的なるグループの先生方でした。さらには、蓮風会長の『経穴解説』の韓国版出版をご推薦してくださり、本大会の特別講演「韓医学におけるパーキンソン病に対する鍼灸臨床研究の最前線」のために来日されていた慶熙大学の曺基湖教授も新風代表のセミナーに参加され、評価してくださったようです。
北辰会の若い先生方はもちろん、大先輩の方々にもご参加いただき、うれしい限りです。
会員のみなさんには、今後どんどん学会に参加し、鍼の世界の優れた先生方との交流を通じて良い刺激をもらい、それを臨床にいかしていかれることを切に望みます。
文責 奥村裕一