2024年3月3日(日)、東京都、八丁堀にある伝統校、東京医療福祉専門学校にて、浅川ゼミ会講演会が開催されました。今回、私永井由梨は、北辰会学術副部長の竹下有先生の助手として参加させていただきましたので、ここにご報告致します。
この講演は、本来であれば2020年3月に開催される予定でありましたが、コロナ禍により残念ながら中止になり、約4年越しの開催となりました。
浅川ゼミ会とは、近代日本における中医学導入の先駆者の一人である浅川要先生が、中医学を鍼灸臨床で活用できる知識・技術研鑽の場として発足された勉強会です。
竹下先生の冒頭の挨拶では、こうした本講演の経緯が述べられ、浅川先生への敬意や、4年越しの講演への想いが語られました。
↑東京医療福祉専門学校玄関
↑左から浅川要先生、竹下有先生、横田篤広先生
今回の講演テーマは、「北辰会方式の鍼灸治療―講義と実技―」です。
講演の流れは、前半は座学1時間半、後半は実技デモ2時間半の計4時間の構成です。
今回の受講者である鍼灸学生、鍼灸師、医師の皆さんが竹下先生へ向ける視線は真剣そのもので、竹下先生も皆さんの熱意に応え、会場はとても良い雰囲気に包まれていました。
座学の内容は以下の通りで、北辰会をご存知の方もそうでない方も、興味をそそられるであろう、充実した内容です。
- 「北辰会」とは?
- 竹下はなぜ「北辰会方式」をやっている?
- 体表観察各論
- 診断・選穴論
- 北辰会方式で主に使用する鍼について
この日はこの5つのトピックを簡潔に、楽しく、面白く、講義してくださいました。
はじめに、1.北辰会の特徴 2.北辰会と竹下先生の関係に関しては、竹下先生のお父様で、(一社)北辰会名誉会員である竹下謙先生と、藤本蓮風会長とのエピソードを交えて語られました。
また北辰会について
「一人の名人ではなく、限りなく名人に近い人を輩出することを使命としていること」
「蓮風先生の膨大な臨床から得られた経験と思索、会員の先生方の絶え間ない追試に基づいて、学と術の両輪でレベルを高めていくこと。」
「医療に完璧は難しいが、完璧を求めて日々臨床に励んでいる。」
この竹下先生の言葉に会場の皆さんが深く頷かれていたことが印象的でした。
3.体表観察各論では各種診察法の解説、4.診断・選穴論では、各種弁証法(特に北辰会オリジナルの正邪弁証の解説では、アトピー性皮膚炎を例に挙げて解説)から、選穴理論、病因病理チャート図を用いた症例解説まで、盛り沢山の内容を平易な言葉で丁寧に分かりやすくお話くださり、受講者の皆さんの頭の中にもスッと入り、理解が深まったのではないかと思います。
5.北辰会で使用する鍼に関しては、三種の蓮風鍼術 (毫鍼術、打鍼術、古代鍼術)と灸術が紹介され、北辰会ならではの術式、道具のお話に皆さんのワクワクした眼差しが印象的でした。
ここで休憩を挟んで、後半は実技デモです。
実技デモでは、当日その場で会場の中から竹下先生の鍼を受けたい方に手を挙げてもらい、その方を治療するという形式で行われました。
【実技デモ①】
主訴:腰痛 60代男性
既往歴:右肩鎖関節脱臼、左内側側副靭帯損傷、逆流性食道炎、高血圧症
先ずは簡単な問診を行い、早速体表観察に入ります。証は心肝気鬱>腎虚・血虚と診立て、右不容穴に奇経鍼3番を使用し、平補平瀉で刺鍼。虚実錯雑したケースを分かり易く解説されました。
こちらの1人目のモデル患者さんの実技デモでは、診察法(脈診、舌診、顔面気色診、眼診、経穴診、尺膚診、腹診、背候診、空間診)と目立つ所見を一つ一つ噛み砕いてポイントを説明しながら体表観察をし、選穴、刺鍼、抜鍼、養生指導まで一連の流れを詳細に行い、体表観察カルテと養生指導用紙を受講者の皆さんに配布しました。
北辰会をご存知でない受講者の方も、頭の中の情報が整理されながら、非常に分かりやすく学んで頂けたことと思います。
☝こちらは背候診解説の様子です。
上背部で左右差が最も顕著であった心兪穴について。
左が虚が深く、右が実で膨隆していることを分かりやすく説明中。
一目で分かるカメラのアングルで背部が映し出され、受講者の皆さんも「本当だ、分かりやすい」「なるほど~」などと頷かれていました。
こちらは、刺鍼の様子☝
モデル患者さんからは、「刺鍼直後からビリビリと気が巡る感覚がします。これまで鍼は何度も受けているけれど、こんな感覚は初めてです。」とのこと。
また、触れられているだけで病が治ってしまうような竹下先生のフェザータッチにも、大変感動されていました。
抜鍼後には、治療前に特に目立っていた所見に良性の変化が現れ、こちらの体表所見も丁寧に解説されました。
受講者の皆さんも解説を聞き、画面に映し出されている体表の経穴の反応を見て、「わぁ~すごい!」と治療前後の体表所見の変化に驚きと感動の声があがりました。主訴の腰痛も軽減し、ご本人も喜ばれていました。(※竹下注:翌日、翌々日に、調子が良いと驚きのメールあり、地方におられる御親戚に、北辰会の先生を紹介して欲しいとご連絡を頂きました。)
その後は、2人目(古代鍼)、3人目(打鍼)と、時間が許す限り次々に簡単な問診、体表観察、術を披露されました。竹下先生の細やかで丁寧な体表観察、選穴から術式を決めるまでのスピーディーさ、手技の美しさに会場にいた全員が魅了されていました。
☝続いてこちらは古代鍼を披露。
背部痛を主訴とした40代男性のモデルの方で、右豊隆に古代鍼ステンレスで瀉法を施されました。鮮やかな竹下先生の手技を、一瞬たりとも見逃すまいと受講者の皆さんは前のめりで集中し、手技のあとには「おーっ!」と感嘆の声があがりました。(竹下注:講演後に暴飲暴食したにもかかわらず、翌日はいつものように背部痛が出なかった、と、驚きのメールを頂きました。)
最後は打鍼を披露。なんと、このモデル患者さんは偶然にも蓮風会長の患者さん(藤本漢祥院通院中)でありました。これには竹下先生も思わずびっくり。主訴は、のどの詰まりということで、蓮風会長の治療穴を聞きつつ、(八椎下、太衝、合谷、後渓の刺鍼が多いとのこと)体表観察に入りました。
目立つ所見としてはやはり、経穴診では、後渓、内関、豊隆、三陰交に実、神門に虚の反応が出ており、背候診では八椎下、肺兪、肝兪に実や熱の反応が顕著に、腹診では心下、脾募の邪や細絡です。
今回は打鍼で、肝の臓に主眼を置きつつも、脾肺腎も意識しながら、主訴だけでない、全身状態の改善を図るよう、関元に火曳きの鍼→右脾募の散ずる鍼→左天枢に相曳きの鍼→関元火曳きの鍼を施されました。多臓腑にまたがる病症や、虚実夾雑証に対して、打鍼は特に有用であるとの解説もされました。(竹下注:治療直後に主訴が緩解し、背中が緩んだ感じがした、翌日はいつもより空腹感が出たと御礼のメールを頂きました。)
また、竹下先生からは、長年北辰会方式で治療を行っていると、90分かけて一から問診を行わずとも、このように症状や簡単な既往歴、体表観察からでも、患者さんのおおよその病態把握が出来るのだ、ということ、これが、多面的観察に重きを置く北辰会方式の特長、良いところ、と話され、受講者の皆さんも納得の表情で耳を傾けていました。
講演後は、次から次へと質問の手が上がり、竹下先生から「良い質問ですね。」という感想が出るような内容の質問も多く、受講者の皆さんの観察眼、向学心、真摯な姿勢に刺激を受けました。この度、拙い助手でありましたが、大変多くのことを勉強させていただきましたこと、感謝申し上げます。
講演冒頭、竹下先生より、
「今日は北辰会をよく知らない人が多いようなので、そういう人たちに、よく知って帰ってもらいたい。」
と挨拶がありましたが、その言葉通り、受講者の皆さんに易しく分かりやすく北辰会を知っていただけた有意義な時間であったと思います。
(文責 北辰会会員 永井由梨)