第74回日本東洋医学会 学術総会レポート

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2024年5月31日(金)~6月2日(日)に、大阪国際会議場にて行われました第74回日本東洋医学会 学術総会に、私、謝敷裕美が参加させて頂きましたので、ここに報告致します。

 

今回の大会テーマは「東洋医学を通した和の構築~病人さんに還る~」で、北辰会からはタケモトクリニックの竹本喜典医師と、三井記念病院の総合内科、リウマチ膠原病内科の増田卓也医師が登壇され、竹下有先生が講師をされている順天堂大学医学部の学生さんが、学生部門のプログラムに参加されました。

また、今年度から北辰会に入会された神鋼記念病院 脳神経内科の村上永尚医師も「消化管出血後のパーキンソン病患者に、加味帰脾湯が貧血だけでなく精神症状に対しても有効であった一例」、六角田中クリニックの田中紀實医師が「更年期症状に対して半夏瀉心湯・四逆散・四君子湯が奏功した一例」をご発表されました。

↑第74回日本東洋医学会 学術総会ポスター


↑会場の大阪国際会議場

 

まず、5月31日に竹本先生が、車座講演として「腹証奇覧・奇覧翼を読み解く」に登壇されました。

腹証奇覧」は1799年に執筆、1800年に出版された腹診に関しての説明や図解が掲載されている解説書であり、「腹証奇覧翼」は、奇覧を一部修正したり、さらなる知見を敷衍して、1853年に全編が完成した書物です。竹下有先生の清明院には、初診室に腹証奇覧の図解一覧が飾られているので、私にとっては少し親しみがあります。

今回のプログラムは、「腹証奇覧」の著者である稲葉文礼と、その弟子で「腹証奇覧翼」を執筆した和久田叔虎の物語を、なにわ風に語るというもの!!落語好きな私は、勝手に落語のような世界を想像し、抄録を見ただけでワクワクしてしまいました。竹本先生は、「その1.腹証奇覧を生んだ時代背景を語る」を担当されました。その後、「腹診図から読み解けるもの~客観性や主観性、そこから導き出す普遍性~」と題した項と、「人体の解剖学的構造と生理学的機能から腹証を考える」という項が続く本演題。古典を実臨床に活かす鍵が込められていそうで、ぜひとも伺いたかったのですが、私が大阪に入れましたのは夜でしたので間に合わず、参加された増田卓也先生にお話を伺いました。


↑奥村先生よりいただいた峯先生と竹本先生の和服姿のお写真

「腹証奇覧と奇覧翼はどのようにして生まれたのか~師匠と弟子の物語を語る~では、そのタイトル通り稲葉文礼(師匠)と和久田叔虎(弟子)の関連がなにわ風に語られました。

稲葉文礼は、飲んだくれで読み書きができずも、必死に医術を習得し、どん底にいる自分に似た患者さん達をただひたすらに診て、ひたむきに治した人でした。一方、弟子の和久田叔虎は、しっかり学のある真面目な男でした。文礼は野生のカン、天性の感覚的理解に優れ、それにて体得された腹診の知恵を叔虎は感動と共に文礼から口伝されました。それから長い月日が過ぎて、本屋で開いた師匠の本『腹証奇覧』は愕然とするくらい、口伝からかけ離れたものであり、その悲しみと怒りから彼は2年の歳月をかけて腹証奇覧を輔翼する『腹証奇覧 翼』を完成させました。こんな対比構造は古今東西どこにでもあると思います。例えば路地裏で開業する凄腕鍼灸師とその技に感動し、その術と口伝を世に伝えんと奮闘する医師など、、(苦笑)。そういった目で再び2つの古典を読み返すと、天性の野生のカンで描かれたもの、ロジカルに描かれたものなど、更に古典を深読みするヒントになりました。」

 

単なる知恵の書としてだけでなく、その背景を知ると、なかなか飛びつきにくい古典にも、人間味や温度を感じますね。目の前で見る、そして自身が感じる臨床現場での感動を、書き残したい、広めたいと思う気持ちは、私もとてもよく分かります!!

 

続いて2日目は、朝9時から「学生のための特別企画」として、“「仲景杯」全国学生漢方選手権大会”が開催されました!


↑仲景杯ポスター


↑順天堂東洋医学研究会メンバーと講師の竹下有先生

これは、医学部や薬学部の学生さんが参加できるイベントで、以下のような流れで、実際の症例情報から、最も適した漢方を選んでプレゼンテーションするという、東洋医学的な知能対決のガチンコ勝負です!今回は2回目の大会となりますが、実は去年の初代優勝チームは、竹下先生の教え子である順天堂大学でした!

 

<仲景杯の流れ>

①東洋医学に関する部活がエントリー(最大12チームまで)。

②【大会3日前】5月29日(水)17時大会実行委員会から、エントリーされた全チームに対し、個人情報を隠した実症例情報が配布される。

③【大会1日前:16時間前】5月31日(金)17時まで症状・所見の分析と、東洋医学的な診断の過程、漢方方剤の選択根拠、最終的に処方する方剤・内服回数・方法、生活指導、現代医学的な病態分析や診断、そのために必要と思われる検査や対策などを検討し、パワーポイント(PPT)を作成する。

④【大会1日前:15時間前】5月31日(金)18時に全チームの回答案PPTが、全チームに共有される。

⑤【大会当日:1時間前】6月1日(土)8時までに発表スライドを提出。

⑥【開会】6月1日(土)9時 仲景杯 開始!!

各チームが5分で、プレゼンテーションを行う。

⑦各チームに対し、質疑応答を行う。質問は各チーム2問受け付ける。1問は、発表した次のチームが直前のチームに対し行い、もう1問は、挙手制で早い者勝ち!

ここでの質問と応対内容も加点対象となる。

⑧5名の審査員(臨床医)が、全てのチームのプレゼンテーションと質疑応答を採点し、優勝、準優勝、三位賞、漢方部門優秀賞、中医学部門優秀賞、審査委員特別賞、出題者特別賞などが決まる!

 

審査基準は、処方選択についての一貫性や論理性、プレゼンの分かりやすさ、質疑応答の的確さ等で、運動部さながらの熱い戦いとなります!!

今回提示された症例は、生後5か月男児の蕁麻疹。慢性的に湿疹を有し、西洋外用薬で増悪緩解を繰り返していた患者が、8日前に38.5度発熱し、2日前から熱はひいたものの少量嘔吐と紅色膨隆の蕁麻疹を生じたもの。詳細な経過に加え、基礎情報として、身長・体重、完全母乳栄養であること、四診情報、西洋医学的な検査所見なども情報提供されています。


↑会場は沢山の学生さんと聴講者で満席!立ち見もあるほどで、意気込みと熱気にあふれていました。

今年は、順天堂大学の他、金沢大学、広島大学、奈良県立医科大学、富山大学、聖マリアンナ医科大学、横浜市立大学、東京女子医科大学、佐賀大学、熊本大学、琉球大学が参加しました。

 

日本漢方の方証相対で検討するチームもあれば、中医学の弁証論治で検討するチームもありますが、いずれも、どの情報をどのように解釈し、そのために、どんな対応がベストなのか、そのためにどの方剤を選択したか等を、大変分かりやすくプレゼンしているため、流派の違いを超えて学びを深め合っていました。

 

実際された処方は、「柴胡桂枝湯1.4g/3と単シロップ」でしたが、順天堂大学は風湿熱を除くことを狙った消風散を選択し、他のチームでは、越婢加朮湯や升麻葛根湯、十味敗毒湯と紫雲膏、柴胡清肝湯、柴苓湯と当帰飲子、防己黄耆湯を選択していました。実症例と同じ柴胡桂枝湯を選択したチームも2チームありました!

 

厳選なる審査の結果、今年度は、奈良県立医科大学が優勝、熊本大学が準優勝で、順天堂大学はベストパフォーマンス賞を受賞しました!

順天堂の学生さんはなんと全員がまだ医学部の2年生!!!実はまだ中医学の基礎理論の学びもまだ終わっておらず、西洋医学も解剖まで、と限られた知識だったにも関わらず、鋭意検討し、会場の雰囲気を一新するような元気あるプレゼンテーションは、今後、先輩に次ぐ強豪校となるオーラを感じました!

 

審査委員長の並木隆雄先生からは、急性や病態の初期の段階では、単剤かつ構成生薬の少ない漢方から選択するようにとのご指導もありました。鍼灸においても、問診情報から病態をどう解釈し、どのような意識で体表観察を行い、弁証と選穴を行うか…、患者さんの中での繰り広げられている正邪抗争に、抜かりない一手を打つ思考の過程を、このような形でディスカッションができると楽しいですし、何より思考の訓練になるなぁと会場の熱気とともに思い描いていました。

 

また、学生部会のイベントとしてはもう一つ、仲景杯に参加された団体が、日頃の活動を報告・共有し合う「「東洋医学」研究会・サークル交流プログラム」というものもあり、こちらでは、順天堂大学は優秀活動賞を受賞しました!

 

熱い対戦が繰り広げられている中、別会場では、増田卓也先生が鍼灸セッションに登壇され、「大柴胡湯去大黄証の胃部膨満感と食事量低下に対する集中的な鍼灸治療により早期の症状改善と食事量増加が得られた一例」について講演されました。


↑難解症例にも古今東西の英知をフル活用し快刀乱麻を断つ、増田先生

 

食後の胃膨満感により1か月で約6kgの体重減少が見られた23歳男性の症例で、肝胃不和,あるいは腹部膨満感と腹診での左上腹部の異常な緊満感を痃癖と解釈し延年半夏湯証が想定されたとのことでしたが、上部消化管の通過障害も完全に否定できない中での漢方薬服薬は適切でないと考え、“一鍼二灸三薬”に従い、まずは強い理気作用で早急に症状を緩和すべく、週に2回の鍼灸治療を開始されたという症例でした。

結果1か月程度で、食後の強い腹部膨満感は減少し、2か月目から鍼治療は週1回として、半夏厚朴湯や半夏瀉心湯を処方し、食事量がある程度改善し体重減少も止まったとのことですが、食事量が思うように回復せず、腹部エコー検査を追加しところ、上腸間膜動脈症候群(SMA症候群)と診断されたとのことでした。

東西の精緻な診察法と病態把握により、自覚症状を改善しながらも、病態を解明されていくご様子はまさに快刀乱麻を断つ、爽やかさを感じました。また最後には、尾台榕堂,浅田栗園著「療難百則」の“癥塊”の項では、本例と同様に 塊が脇下にあって,或は噫氣呑酸,或は毎食停滞を覚え…(中略)…薬食ともに吐いて終に死する者がありますが…(中略)…栗園曰く,このような敗状は扁食と雖(いえど)も奈何ともすることはできない とあり、湯液での治療が困難と述べられていましたが、SMA症候群などの消化管通過障害も癥塊に含まれるのではないかと考察され、湯液での治療が困難と思われる今回のような症例に、鍼灸の有用性を認識できる症例でした。

 

また、今回の学会では鍼灸に関するセッションが3つ用意されており、難治性の吃逆や、顔面神経麻痺、帯状疱疹後神経痛、原因不明の両下肢痛等への症例報告や、原南陽の『経穴彙解』の編纂過程をひも解くといった演題もあり、その1セッションにおいて、竹本喜典先生が座長を務められました。

鍼灸部門においても、ディスカッションに耐えうる病態把握と経過観察が成されることで、こうした一般演題においても、建設的な議論や症例の検討ができることが求められているのではないかと感じました。

↑どのような病態把握から、実際どのような治療がなされたのか等、竹本先生の建設的な質問で議論が深まりました。

 

様々な分野での学会がありますが、日本東洋医学会はいつもアットホームでありながら、常に患者さんを救いたいという熱いパッションで、研鑽を積むべく参加者が積極的に参加している学会で、知識のみならず、諸先輩先生方の意識や情熱に力を得ることができます。 今回の学びを臨床のみならず、研究分野にも活用して参りたいと思います。

 

(文責 北辰会会員 謝敷裕美)

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