
2025年9月27日(土)・28日(日)兵庫県姫路市にて第31回日本病院総合診療医学会学術総会が開催されました。この学会は総合診療医を中心とした総合診療に関する領域の研究推進・臨床を通して国民の健康増進に貢献することを目的としています。
若手の医師・医学生・医療従事者が多く参加され、とても活気のある学会という印象を受けました。今回は、鍼灸師として北辰会から藤本新風代表が講演・公開臨床で登壇しましたので当日の様子をレポートさせていただきます。
目次
日時:9月27日(土)

ワークショップ2
テーマ:「鍼灸・漢方医療と総合診療の関り」
座長
・増田卓也先生(三井記念病院 総合内科・膠原病リウマチ内科)
・志水太郎先生(獨協医科大学総合診療医学/獨協医科大学病院総合診療科)
演者
・勝倉真一先生(獨協医科大学病院 総合診療科)
・加島雅之先生(熊本赤十字病院 総合内科)
・藤本新風先生(鍼灸 藤本玄珠堂/一般社団法人 北辰会)
今回は勝倉先生、加島先生の講演が各10分、新風代表の講演10分・公開臨床が20分、最後に質疑応答という形でワークショップが進んでいく流れとなりました。

①「大学病院総合診療科と地域鍼灸院での連携方法とその効果について」
・勝倉真一先生(獨協医科大学病院 総合診療科)
「3週間前に左肩痛が増悪した」とのことで、アームスリング(三角巾)を巻いての登壇でした。※今回、新風代表の公開臨床において、モデル患者を引き受けてくださった勝倉先生ですが、事前にいただいていた症状以上に、悪化しておられました。
勝倉先生は、ご自身の勤務先である栃木県宇都宮市の大学病院と地域鍼灸院との連携実践を紹介。慢性的な疼痛や、倦怠感等、西洋医学では必ずしも効果が期待できないような症例の場合、地域の鍼灸院に紹介し実際に治療効果を挙げた症例を、統計で示されました。今回は、その中でも病院での診療・診断を経たのち、地域鍼灸院と連携して双方でケアすることで、症状改善・QOL向上に寄与した事例を報告されたのですが、その中でも特に難治性疾患において鍼灸治療が非常に有効であったと強調されました。
また同時に課題として、鍼灸院を紹介する医師に偏りがあること、鍼灸院のピックアップがネックであること、効果が主観的で定量化が難しいこと、鍼灸治療に保険が適用されないため費用負担が大きくなり、治療を続けられないこと等、医師と鍼灸師が連携する際の課題についても指摘されました。
今後、医鍼連携の標準化、鍼灸治療院の客観的評価を高めていく必要性を強く感じる内容でした。

「急性期にこそ、漢方(漢方薬・鍼灸)!」
・加島雅之先生(熊本赤十字病院 総合内科)
加島先生は、まず“証”の基本視座を簡単に解説。その後、熊本赤十字病院において実際に行われた鍼灸臨床とそのデータをもとに、急性医療における漢方と鍼灸の役割について報告。従来、漢方や鍼灸は慢性期疾患や不定愁訴に用いられる印象が強いのですが、実際には急性期の症状緩和や治療効果の補助としていかに有効であるかを紹介され、鍼灸治療の介入を組み合わせることで疼痛症状が大きく軽減した例を示されました。その結果、平均在院回数が減少し、病院側にとっても患者側にとっても有益であることを事例で示された上で、医療の中でも鍼灸は世界的標準になりつつある現在、総合診療医が従来はあまり意識されなかった急性期の患者に対しても、柔軟に東洋医学を活用し、鍼灸師と病状を共有し、病態理解を深めることが今後の医療連携の進展につながると訴えられました。

「北辰会方式鍼灸による総合的診療」
・藤本 新風(鍼灸 藤本玄珠堂/一般社団法人 北辰会)
新風代表は、まず北辰会方式(鍼灸弁証論治)の理念と実践を紹介。患者を全人的に診るという点で、総合診療と鍼灸医学の親和性の高さを共有されました。具体的には、望診・聞診・問診・切診を組み合わせた弁証論治・治則治法に基づいて鍼灸治療(少数鍼)を行うことで、多様な症状を包括的に改善することができるとして、病因病理チャート図を提示しながら詳細解説。その後、公開臨床モデル患者となった勝倉真一先生の主訴①全身倦怠感や集中力の低下、②左肩の痛み、その他生活習慣・体質素因を知る為に記載した問診票、臨床症状および追加情報からの考察を踏まえ、東洋医学的な病因病理、弁証論治を詳細に解説したのち、公開臨床に移りました。

・公開臨床
体表所見、追加問診をする過程で、肝脾腎に問題がある可能性に絞り、最終的には病理産物(瘀血)の増加と筋骨(肝腎)の損傷によるものではないかと判断し、今回の選穴・処置として左右手の井穴刺絡を選択されました。井穴刺絡は注射鍼を用いて、三井記念病院総合内科医の医師で、北辰会会員でもある増田卓也先生が新風代表に代わり井穴刺絡の処置を担当。
普段の臨床では滅多に見られない井穴刺絡の処置を一目見ようと、ベッドサイドには多くの先生方が集まり興味津々。会場は大きな盛り上がりを見せました。
処置の前後で、座長の志水太郎先生が、新風代表と共に体表観察所見を確認されたのですが、処置後の脈診・腹診・穴所の変化を体感され、納得されていることが私たちにも見てとれ、非常に印象的でした。
公開臨床でモデル患者を務めてくださった勝倉真一先生からは、後日新風代表宛に「公開臨床後の夜はこれまでより肩の痛みをあまり感じずに就寝することができ、また翌朝の時点でも明らかに前日より肩の痛みや可動域が改善しているようで、驚いております。」
とのコメントがあったとのことでした。
今回のワークショップを通じて
今回のワークショップでは、総合診療の視点(包括的・患者中心・生活背景に基づく診療)と東洋医学的視点は親和性がとても高いということを改めて痛感しました。
課題はまだまだたくさんありますが、病院と地域鍼灸院との連携、治療効果の客観化、そして正確な弁証論治・病因病理の共有が医鍼連携にとって最も重要であることを学びました。
また、北辰会会員の私にとっては、総合診療と北辰会方式(鍼灸弁証論治)の接点を改めて確認することができ、両者の協働による新たな医療モデルの可能性に胸がワクワクするようなセッションでした。

写真:左から当会奥村学術部長、京都府鍼灸師会熊野会長、加島先生、新風代表、勝倉先生、増田先生、当会竹下学術副部長、志水先生
文責:下城敦

